英語の｢アレキシサイミア｣の日本語は｢失感情症｣です。感情を認め、表現したり言語化することの障害のことを指します。しかし、感情が全然ないというわけではありません。他人とコミュニケーションが取れないことがストレスとなります。どのような傾向がある人がアレキシサイミアになりやすいのでしょうか。どのような生活上の不都合があるのでしょう。あるいは自身の身体への影響はどうなのでしょうか。対処するにはどんな方法があるのでしょう。ここでは、まだ認知度が低いとされるアレキシサイミアについて詳細に見ていくこととします。

失感情症（アレキシサイミア）とは？

失感情症（アレキサイミア）は、1972年にハーバード大学マサチューセッツ総合病院にて、心身症の治療に功績のあるシフネオス医師によって提唱されました。心身症とは、日ごろのさまざまなストレスにより、身体疾患を招いてしまったものです。仕事や人間関係等のストレスなどを原因として、潰瘍性大腸炎や過敏性腸症候群、気管支喘息などといった身体疾患を生じてしまうのが心身症といえます。この心身症の原因とされるのがアレキサイシアなのです。

失感情症（アレキサイミア）は、喜んだりや怒ったりするといったものが少ないか、あるいはないのではないかと思えるような性格特性となります。みんなが笑っていても、笑顔もなく、かといって面白くないと感じているわけでもないような人です。自分の身内の人が亡くなっても、涙を流さず、無表情で言葉も発しないような人ですね。程度と個人差がありますが、普段から感情が乏しい様子が疑わしい人の場合、診断テストをやってみるか精神科医の診断を受けてみましょう。失感情症の可能性が高いと思われます。

失感情症の人は、自分の気持ちを言葉を使って表現することや、感情とフィジカルな感覚とを区分することが難しいのです。しかし必ずしも感情がないのではありません。無表情な人でも、心の内ではストレスやマイナスの感情がためこまれていたりします。ストレスによる不快感がうつなどの身体的不調となって、言葉や表情に代わって現れてくることもよくありますね。しかし、ストレスによる心拍数や呼吸のみだれといった身体の変化も自覚がないため、うつや病や心身症を招いたり、ためこんだ感情がさく裂したりします。

失感情症（アレキシサイミア）になりやすい人はいる？

アレキシサイミアになりやすい人は、遺伝的要因からみると、自閉症スペクトラム、あるいはアスペルガー症候群（略してアスペ、英語でads）といった発達障害の人でしょう。言葉の発達が遅れているので、コミュニケーションの障害となって、自分の感情が伝達しにくいのです。そのほか、aspのように感覚過敏で緊張しやすく不安やストレスを感じやすい人や、自分の身体の不調を自覚できない感覚鈍麻の人や、自分の感情を客観的に見つめることができない想像力障害の人、強迫性障害の人といったところです。

そして、もうひとつの遺伝的要因としてジゾイド（統合失調質）パーソナリティー障害の人やアンヘドニアといった統合失調症の人があります。感情にメリハリがなく、一人でいることが好きで、しかも日常生活での悩みやトラブルをもつ人や、寡黙だけれど時々場違いな発言をする人などです。

さらに、環境要因として、子供の頃から自分の感情を大切にあつかってもらえなかった人があります。たとえば、両親から虐待やネグレクトなどを受けた人です。つまり、親に否定され続けることによる心理的虐待を受けた人のことになります。そのほか、几帳面で完璧症の人や争いごとが嫌いな人、責任感が強くまじめな人、神経質でストレス解消方法を持たない人などです。さらに、男性よりも女性の方が失感情症になりやすいと言われています。

失感情症（アレキシサイミア）は孤立しやすく、疲れを溜め込みやすい

失感情症の社会的な影響として具体的な症状は以下の2点があるのです。

【他人とのコミュニケーションができない】
失感情症の人は、日常生活での不都合なこととして、自分の感情を言葉で表すことが苦手なため、いろんなシーンで他人から気持ちを尋ねられても返答することができないことが多いのです。

【他人の気持ちが伝わらない】
自分の感情を把握するための感覚機能がうまく作用していなため、喜んでいるのに喜びと感じない、苦しいのに苦しいと感じないといったように、感情と表情が一致しないこともあります。たとえば、恋愛映画の結婚シーンや少女漫画の悲しいシーンを見ても主人公である彼女の恋愛感情を感じることができないとか、泣いているのに自分が泣いているという実感がなく虚無感を感じるといったことがあるのです。

感情はうかんでくるのに、その感情に気がついて言葉にして表現することが苦手なため、ストレスをすっかりためてしまうきらいがあります。そしてストレスが病状としてあらわれ、潰瘍性大腸炎による痛みや気管支喘息といった身体疾患心身症へとつながるのです。さらに、気分変調症、薬物依存症、摂食障害等、境界性人格障害といった看護を必要とする疾患を発症することもあるといわれています。

まずは、心の声に気づいてあげること

では、失感情症の対処方法や向き合い方について考えてみましょう。

失感情症である自分の特性を認識する

自分の特性が失感情症の傾向が強いのだと認識するだけでも、自分の体調や心のわずかな変化を認識しやすくなるのです。普段から自分の言動についてメモで記録するなどして心の声に気づいてあげる方法もあります。そうすれば、いつもとは異なる言動から不調のきざしを見つけやすくなりますね。自分で記録することができない場合は、自分をよく知る夫や妻や友人など周囲の人の意見を参考にしましょう。

休憩を取る・ストレスから距離をおく

仕事や勉強の合間に、自分が疲れている意識はなくても、一定時間や回数を決めて意図的に休憩を取ったり、自分がリラックスできることをやってみたりしてメリハリをつけます。発達障害の場合、過度に集中してしまうこともあるので、適宜休憩をとれば心身の消耗を避けることができるでしょう。

物語を読んでみる

絵本やマンガはおすすめです。絵本やマンガは、登場人物の表情から考え方、感情を絵やイラストや文字をつかって視覚に訴えるようにしています。絵や文字ならだれでも簡単にわかるので、感情の表現方法や使う言葉の勉強にもなりますし、わかりやすいです。絵よりも文字の方が好きなら小説でもいいでしょう。ジャンルは好みのもの、わかりやすいものなら何でも問題ありません。

心身の緊張を和らげる

身体の不調を取り除くためにストレスを緩和する治療法としてリラックスできる深呼吸などを取りいれたり、自律訓練を実施したりして、心身の緊張を和らげていきます。

失感情症（アレキシサイミア）はあくまで性格傾向

一般の人は、自分自身のちょっとした感情の動きに気づくことができ、その気持ちを言葉にして表現することができますが、これは、健全な暮らしをするためにはとても重要です。いっぽう、表現がうまくできないアレキシサイミアの人たちは、抑圧された感情が無意識のうちにどんどんたまっていき、そこから何らかの症状が現れてくるといわれています。アレキシサイミアの要因となるものはまだ完全にはわかっていません。しかし、アレキシサイミアは病気ではなくあくまでも性格傾向なのです。適切な処置を行うことで改善が望めることは明らかですね。自分の特性をよく把握したうえで、まわりの人にも協力してもらい、しっかり自分をコントロールしていくようにしましょう。