2021.05.03
「ディスグラフィア」は、「書字障害」や「書字表出障害」と言ったりするなど、いろんな呼び名があります。読んだり、書いたり、聞いたり、話したりする能力や、推計したり計算したりする能力のうち、ことさら文字を書くことに不都合がある学習障害です。話している言葉はわかるのですが、それを文字にすることが困難となっています。
「知的発達的には大きな遅れがない」ことが、ディスグラフィアなどの学習障害の注目すべき点です。文字を書くことが苦手だったり、できなかったりするというだけで、話したり行動したり、文字を読んだりすることは問題なくできてしまいます。そういったディスグラフィアの特徴や症状、原因や治療法について詳しく見ていくこととしましょう。
目次
次のような症状がいくつか該当する場合はディスグラフィアが疑われます。
・文章を書く時に指がけいれんする ・手首・腕・体・または紙を直角に動かすくせがある ・何度も書いた文字を消して書き直しをする ・特に英語の場合大文字と小文字が混在させる ・統一性がない大きさと形の文字を書く ・文字を書くのを途中でやめてしまう ・線と余白を上手に活用できない ・文字を書き取ることができない ・文字を書いているときは細部に注意が届かない ・何回注意されてもふたたび同じ書き間違いをする ・頭の中で今から書こうとする文字の並びを思い描くことができない ・読みやすい字が書けない ・形が整った字が書けない ・書くことと考えることを同時に行うことが難しい ・メモや作文を書くことが難しい ・同音異義語が理解できない ・無関係の言葉を使ったりして想定している文章を書くことができない ・指や手首や手のひらがけいれんして、文字を書いている時に痛みがある
このように文字を書く時に抵抗感や違和感があればディスグラフィアの可能性があります。 しかし、授業中に子供が注意散漫であったり、やる気が見られなかったり、運動能力に劣りが見られたりといったことから、見た目だけの印象による思い込みでディスグラフィアの症状に気が付かないこともよくありますので、客観的にじっくり観察することが必要です。
ディスグラフィアの原因はまだはっきりとはわかっていません。文字の体系やつづり方を認識することや、細かな手指の筋肉のコントロールがうまくできず、文字をひととおり書きあげることが困難なためだと言われています。言語障害や注意欠陥障害などといっしょに発症する場合も見られるのです。
ディスグラフィアは以下のように大きく3つに分かれます。
書かれた文字を見たままに書き写すことはできるのですが、しょっちゅうスペルミスをするのです。しかし、この症状は脳の障害が原因でないということがわかっています。
筋肉の緊張などの異常が原因で指先や手先の筋肉を使う細かい運動ができないものです。ごく短文であれば、書くことができますが、普通の人よりもたくさんの時間と労力を必要とします。くわえて、手に筋肉の緊張をともなうこともあるため、長く文字を書き続けることが難しいとされているのです。また、書いた字が大変読みにくいのも特徴となります。
空間の認識が苦手な人のことです。微細運動障害型と同様に、書いた文字のすきまの配置が悪いため、大変読みにくいものとなっています。また絵を描くことも苦手です。
ディスレクシアは「読字障害」とも言い、学習障害の中では最もポピュラーなものになります。読む能力に不都合があるものですね。読字障害では指や手首や手のひらが痙攣することがあると、「読み書き障害」として、文字を書くことにも弱点があるとされることもあります。脳の機能により情報を伝達して処理することができないため、読字障害の人は見た文字を音に変えることができなません。文字が鮮明に見えないとか、黒い点のようなものに見えるとか、逆に見えるとか、図形に見えるとか、人によって見え方がさまざまです。
また、ひらがなやカタカナでは一字一句認識していても、それが漢字や言葉になると認識できなくなってしまうこともあります。音・訓読みの区別がつかずに漢字を読んだり、変な所で区切ったりした読み方をするのです。しかし、音声などといった耳から聞く情報の場合は、理解できる場合が多くなっています。
片や、学習障害の中でも、文字を書くことに不都合があるとか、板書された文章などを書き写すことができないなどといったものが「ディスグラフィア」です。本人としては正しく文字を書いているつもりなのに鏡文字になってしまうなど、文字を書くという作業が苦手となっています。脳から身体に指令を出して手を動かす伝達機能が機能していないことが原因だという説が有力です。
具体的な特徴としては、鏡文字を書いてみたり自分で勝手にアレンジした文字を書いてみたりします。また、書き順の間違いや誤字脱字が目立ったりもするのです。また、他人が書いた文字を書き取ることができなかったり、漢字が覚えられなかったり、文字の形や大きさが不ぞろいになったり、文字を書くのが遅かったりします。
ディスグラフィアの兆候がある子供を学習障害専門施設で観察できればその症状はすぐに見つけることができるでしょう。しかしディスグラフィアの子供を目前にすると、やる気が感じられないとか、単に書くのを嫌がっているのだろうと思い込んで、怒って頭ごなしに説教してしまうこともあります。ディスレクシア同様、家族や周囲の大人が普段から注意して見守り、本人の悩みに耳を傾けたり、共感してあげたりすることによってディスグラフィアを早く見つけてあげることができるのです。
ディスグラフィアの治療方法はまだ試行錯誤中とも言うべきもので、まだ完璧な方法がなく、字を書く手の動きを制御できるための微細運動の治療法などもその施行例となります。また、記憶障害や神経の障害に用いられる治療方法もその施行例として考えられているようです。ディスグラフィアの知識を習得した教師により、学校で教育療法を授業に取り入れることも検討されてきています。書くことの能力に関して、同じ歳の子供と比べてずいぶん遅れがあったり、本人が書くことをいやがったりするなど、子供を見ていて、ディスグラフィアではないかと思いあたる場合は、地域の保健センターや児童相談所もしくは学校などに問い合わせてみるのがいいでしょう。
子供と大人では専門機関が異なります。大きくなってはじめて自分がディスグラフィアであることに気づく場合もありますので注意です。
【子供の場合】 保健センター 子育て支援センター 児童発達支援事業所 など
【大人の場合】 発達障害支援者センター 障害者就業・生活支援センター 相談支援事業所 など
ディスグラフィアへの支援は、上記の施設に所属する専門家による検査や診断を受けてから本格的に行われることが一般的となっています。しかし、医師による診断ができなかった場合や検査を受ける前でも、その子に合った環境を用意し、学習方法を発見してあげることが肝要でしょう。子供にあった学習方法を親が見つけるケースもありますが、それができそうもない場合は専門機関に相談したり、学校の特別支援教育を担当したりする先生に相談してみることです。
ディスグラフィアにより、自分は字が書けないと嘆いてしまい、うつ病や不登校になってしまう子供もいます。やる気がないからと叱ったり、練習だとしてたくさん書かせたりするのはやめましょう。そして、親やとりまく人がその子供に向いた方法を考え、実行するのです。
ディスグラフィアはその人が持つ個性や特性といった能力の一つです。従って、ディスグラフィアであることに劣等感を感じたり、学習障害だからといって悩んだりする必要はありません。発達障害でない人とも同じようにいろんな可能性を秘めています。たとえ文字が読めなくても、他のいろんな手段を使って読字障害を補完することができるのです。専門機関を活用して、どのように機能を補完することができるのかをいっしょに見つけていきましょう。