2022.05.16
最近では、さまざまな世界で「QOL」という言葉を耳にします。
介護。福祉の世界では、特にQOLを高めることが大切だと言われるようになってきています。 QOLとは何なのでしょうか。 特に介護・福祉の現場ではどのような意味で使われているのでしょうか。
この記事では、介護や福祉におけるQOLとは何なのか、QOLを高めるために介護事業者ができることなどについてまとめました。 ぜひご参考にしてください。
目次
QOLは「Quality of Lifeの略で、「人生・生活の質」あるいは「人生の幸福・満足」、「生活・生命」などです。
医療の世界では、治療が重視されますが、ADLの自立がリハビリテーションや福祉の世界では需要視されてきました。 しかし今日では治療やADLよりもQOLの方が介護の指標として使われるようになってきたのです。
介護分野におけるQOLは、介護サービスを受ける人が充実した自分らしい生活を送れているかが評価の基準になります。
QOLが高いとは介護サービスを受ける人がより楽しみや生きがいを感じながら生活ができているということです。
「ADL(Activities of Daily Living)」も介護・福祉の現場でよく耳にする言葉で、日本語に訳すと「日常生活活動」あるいは「日常生活動作」です。
ADLとは、具体的には、日常生活を送るために欠かせない食事や入浴、排泄、更衣、整容、移動などの動作があります。 ADLを高めると、連動して自立した生活が送れるようになり、さらに連動してQOも高くなるようです。
逆にADLが下がると、家に閉じこもりがちになり、何かと自信も失われ、心身機能の低下を招きます。
それでは、ADLを高めなければQOLも高めることができないのでしょうか。
病気や高齢などの理由で寝たきりになっていたり、自由に動くことができなくなっていたりした場合でも、さまざまな福祉用具などの活用や支援によってQOLの向上を目指すことができるのです。
例えば、歩行が難しい人の場合、杖よりも車椅子の方がQOLは高いでしょう。
車椅子を使うことで不便さを感じていないのならば、ADLは低くても、QOLの方は高いと言えます。
このように、ADLとQOLとはある程度連動しますが、本質的には別のもので、分けて考えるべきです。
どのような状態が幸せであり、満足することができるのかを一人ひとり確認していくことが大切でしょう。
まずは、利用者の悩みや不満をよく聞くことから始めましょう。
本人の思いを理解することがQOLの向上には大切なことです。
積極的にコミュニケーションをとることで利用者の気持ちや望むものが理解できるようになります。
コミュニケーションをとることは、刺激にもなるので、利用者の思考や感情を活性化させることも可能です。
その結果、新たな可能性を引き出し、日常生活も生き生きとしたものとなります。
利用者の行動を観察することも大切です。
利用者の日頃の行動をよく観察して情報収集しましょう。
とは言え、認知症で意思が確認できない人もいますし、1人で静かに過ごしたいという人もいます。
そのようなケースでは、同僚の介護職員や本人の家族といった第三者から話を聞くようにしましょう。 無理にコミュニケーションをとろうとはしない方がいい場合もあります。
利用者の身体機能を高めるためにも、職員が介護しすぎずに見守ることも時には必要になります。
自分でやることを面倒がる利用者に対しては、身の回りの世話はやってあげた方が手っ取り早いということもあるでしょう。
面倒見のよい介護者はどうしても世話をやきすぎるきらいがあるようです。
世話をやきすぎることは、ADLが低下し、その結果QOLも低下する可能性もあります。
介護職員はサポートに徹し、自分でできることは極力自身でやってもらうようにしましょう。
ADLのことだけを気にして、QOLの低下を招くことのないように注意が必要です。
いろいろと工夫して他者との交流の場を提供することも効果的です。
例えば、レクリエーションや季節の行事、あるいはイベント、社会的な活動・行事へ参加することなども効果的でしょう。
利用者が新たな楽しみや喜びを見出すことができればQOLを高めることができるのです。
利用者・要介護者のQOL向上のために介護事業者ができるのはどのようなことでしょうか。
まず、スタッフ間でのミーティングを開催し問題解決を促すことがあげられます。
会議を行うことにより施設内の風通しがよくなるでしょう。 例えば誰かが問題点を提起し、皆で解決策を考え、共有することができます。 また、ケアマネジャーが、もっとこんなサービスを提供してほしいなどと具体的な要望を伝えることもあるでしょう。
会議では、辛辣な意見が出ることもありますが、本音で話をすることでサービスの改善につなげることができます。
ADLの中でも、排泄、食事、入浴は特に基本となる行動です。
食事ケアは、出てきた食事を介助して食べてもらったら終わりと言うものではありません。
介護施設の食事には、刻み食、極刻み食、流動食などさまざまな形態があります。
自分の目で認識していないメニューを、人の手によって次から次へと口に運ばれてもうれしくないでしょう。
「排泄」ケアは、本当に大変な作業です。ケアする人にとっては、本当に骨が折れる作業ですね。
また、排泄を介助される方も不愉快かつ恥ずかしいものです。
ケアされる方の身になって、どのような排泄の支援をして欲しいのかを考えるのも介護事業者の役目です。
入浴ケアは、サービスを受ける人は恥ずかしさもありますが、リフレッシュできると感じることの方が大きいでしょう。
入居者がたくさんいる施設では、入浴介助するのは大変なことです。 流れ作業的に次から次へと浴槽に入れ替える施設もあるのではないでしょうか。
たいていの人は入浴が好きです。
入居者1人ひとりのペースに合わせて、楽しく入浴させることができればいいですね。
介護・福祉の世界では、ケアプランを作成しなければなりません。
ケアプランとは、利用者の受ける介護サービスの内容、目標の設定、自立支援のためのケアチームのメンバーの役割などをまとめた計画書です。 記載内容は、自立するための課題や目標、援助内容、利用するサービスの種類、サービスの提供を行う事業所、家族や地域の方の役割、ケア内容、期間などになります。
このケアプランが施設内の職員間に共有されることで、より高い介護サービスを提供することが可能です。
ケアプランに加えて、ケア記録の作成も大切です。 ケア記録とは、利用者の生活の変化や、サービスが適切に行われているのかを記録するものになります。
利用者には、特定の1人の援助者が張り付いてケアを行っているわけではありません。
複数の人による交代勤務によって、ケアが行われています。
ケア記録がないと利用者の状況や状態が共有できませんし、提供しているケアのモニタリングもできません。
文字による記録なら、すぐに思い出すことができますし、その場にいない介護職員にも情報を伝えることができるのもメリットです。
QOLは支援者の価値観で決めることはできず、支援を受ける人それぞれの価値観によって決められます。
介護や福祉の質の善し悪しは利用者一人ひとりによって異なるのです。
その人にとってどういう環境が最適で、どういったサービスを提供すべきかを判断するためには、利用者の思いをよく理解しなければなりません。
基本動作ができるのかできないのかではなく、その人らしい生活がおくれるかどうかがポイントとなります。
利用者の気持ちに寄り添った介護を提供することが介護職員の務めであり、QOL向上につながると言うことができるでしょう。